MLDはどうやって治すの?[改訂版]

 まず考えなければならないのは、MLDはDNAの先天的な異常による疾患であるということです。つまり、完全な(対症的でない)治療は遺伝子レベルでしかあり得ません。もう一つ重要なのは、一度ダメージを受けた脳神経はもとには戻らないという事実です。これに加えて、実際に障害が起こるのが脳内という非常に外部からのコントロールが難しい部位であることが、MLDの治療を難しくしています。現時点で根本的な治療法というのはありません。従って、MLDであるという診断が下された場合、そこから治療が始まるというよりも、症状の進行に応じて少しでも日常的な生活能力を維持する対症的な治療(たとえば痙攣をおさえる投薬)や、リハビリテーション(たとば嚥下能力の低下に対応する食事の取り方の訓練)が中心になると予想されます。

 現時点で治療法としては、次の4つの手法が試されていますが、いずれも試験的段階であり、一般的な効果は確認されていません。

 

→食餌療法
→酵素補充療法
→骨髄移植
→遺伝子治療
→結論

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1)食餌療法(優境)


 フェニルケトン尿症などの先天性代謝異常には有効な療法ですが、MLDについてはいまのところ効果が認められていません。過去には低ビタミンA食などが試されました(85年先天性代謝異常学会における神戸大学、松尾保らの報告)が、その後広く効果が認められる療法として定着していません。

→ロレンツォのオイル(制作中)

 

2)酵素補充療法


 不足している酵素を患者の体内に注入するという方法です。ADAの欠損による重症複合免疫不全症(SCID)などの疾患で実績をあげている方法ですが、MLDの場合効果は実証されていません。血液脳関門の存在、免疫学的問題などがその理由として考えられています。簡単に言うと、まず、アリルスルファターゼAを治療に必要な量だけ合成する方法が確立されておらず、たとえそれができたとしても、酵素を患部である脳に運ぶ手段がありません。

→酵素補充と免疫

 

3)骨髄移植


 骨髄移植は主に白血病や悪性貧血の治療法として行われるものですが、いくつかの先天性代謝異常についても有効性が確認されています。血液そのものの異常というわけではないこれらの代謝異常に対して、骨髄移植がなぜ有効かという機構についてはまだよくわかっていない部分もあります。しかし、骨髄中に含まれるドナーの細胞が患者の組織の中で正常酵素を供給すると考えられます。現状ではMLDに対する唯一の治療法であると考えられます。また、あらゆる治療法の中で、唯一、脳内の症状を物理的に改善していることが確かめられている療法です。
 ただし、患者の身体に大きな負担をかけること、拒絶反応GVHDなどの重大なリスクがある治療法であることなどのため、実施には慎重な検討が必要です。また、HLA型が一致したドナーの存在が前提になります。また、効果についても、症状の進行を止める、あるいは遅らせることが期待できるだけで、いったん発症した症状、特に中枢神経障害を改善することはあまり期待できないといわれています。先天性代謝異常症の患者に対する骨髄移植の世界的権威であるミネソタ大学のクリビット教授は、MLD患者に対する骨髄移植の指針について、「小児型、成人型の神経症状がまだあまりでていない段階」「幼児型については、神経症状が出る前」というのを一つの指針として示しています。

→骨髄移植とそのリスク
→「先天性代謝異常症と骨髄移植」東海大学矢部先生に聞く
→「MLD患者と骨髄移植」慈恵会医科大衛藤先生に聞く

 

4)遺伝子治療


 患者の細胞を取り出し、DNA上の異常を修正して体内に戻す遺伝子治療の研究も進んでいます。1990年にADA欠損症の治療を目的として世界初の遺伝子治療が行われました。MLDの治療法としても慈恵会医大の大橋・衛藤のグループなどで研究されていますが、いくつかの技術的な問題もあり、臨床まで進められない段階です。原理的には大きな可能性をもった分野であり、今後の研究の発展が期待されます。
 現在研究されている治療法の中で遺伝子治療はかなり期待できると思います。しかし、MLDはエイズのように患者が多いわけでも社会的に注目されてるわけでもありません。つまり、研究にかけられている費用や人的資源が桁違いであるということです。この点に注目して、一般の募金を募り、独自に研究をサポートしようとしている団体も米国にあります。

→MLD遺伝子治療の現状と問題点
→ULF(United Leukodystrophy Foundation)

 

  5)その他の療法の可能性  

 
 MLD以外の先天性代謝異常に対しては、他にもいくつかの療法が試みられています。一つは薬物によって酵素の活性を高めたり(MLDの患者の場合も、アリルスルファターゼがまったくゼロではない、つまり残存酵素活性があるのが普通です)、問題となる物質(MLDの場合はスルファチド)を分解する薬物を投与する、という薬物療法です。しかし、MLDの場合、たとえそのような薬が開発されたとしても、脳内にそれを送る手段がありません。たとえば、静脈に注射しても、薬は脳まで届きません。従って、肝臓などの中での代謝が問題になる疾患と違って、薬物療法は非常に困難です。

 肝臓などの臓器の中で行われる代謝が問題となる疾患では、臓器移植も試みられています。代謝を行うことができる健常者の臓器を移植してしまえば、問題はとりあえず解決、という考え方です。しかし、脳白質を移植することは(非常に特殊な場合をのぞいて)不可能ですから、この方法も使えません。

 

【結論】


 結論として、MLDには現時点で有効な治療法はなく、いわゆる不治の病です。症状が表れる前の早期発見を前提とした骨髄移植くらいしか、対応策がありません。MLDは非常にまれな疾患であり、たとえば開業医であれば小児科の専門医であっても一生に1度も症例に出会わないのが普通であり、大学病院などの専門機関でも10年に1度出会うかどうか、というように聞いています。これはなにを意味するかというと、専門医であっても、(その時点で)MLDの最新治療法について熟知している可能性はほとんど期待できないと言うことです。先端療法や最新の研究結果については、インターネットを利用できる環境であれば米国の医療データベースなどを利用した方が迅速かつ広範囲に情報を集めることができ、実際にこのホームページもそうして得た情報から構成されています。また、以上のような状況については日本と米国でそれほど差がないので、海外での治療のメリットは現時点ではそれほどないと考えられます。

 なお、治療法全般に対しては国立国際医療センターの鴨下先生が概説したものもあるのでそちらもお読みください。

→代謝異常症に有効なその他の治療法 [制作中]
→鴨下重彦先生に聞く

→世界のMLD患者 
→楓子が現在服用している薬

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